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君はなぜ、やらないのか(3)「内部モデルが行動を決める」
 前回では、行動を判断しようとするとき、本能に由来する感情が理性にブレーキをかけることを確認してきた。今回は、理性という情報処理機能のしくみを見ていこう。

 脳の高度な情報処理機能は、脳が記憶能力を持つことによって可能になる。記憶能力の無い生物は、常にその瞬間だけで生きており、空間や時間という概念は無い。彼らは、本能に由来する反射行動に終始する。しかし、人間のように記憶能力を持つと、過去の情報と現在の情報を照合させながら行動を決定できるようになる。これが“判断”だ。

 記憶には、「地球は丸い」というような意味記憶と、「相手がいやがる話をしたら嫌われた」というような経験を記憶するエピソード記憶がある。判断には後者の影響が大きい。

 エピソード記憶は「〜したら〜となった」という因果関係の形で、膨大な数が脳に蓄積されている。これを、その人が持つ“内部モデル”という。人は、知覚した現在の状況についての情報と、内部モデルにある過去の情報を照らしながら、自分の行動を決定する。つまり、過去の経験によって書き込まれた「〇〇すると★★という結果になった」という内部モデル(記憶)を思い出し、これを逆にして「★★という結果にしたいときには〇〇すると良い」という結論に転換するというプロセスだ。これが“思考”だ。
 
 また、感情情報も内部モデルに盛り込まれる。もともとエピソード記憶を形成する経験行動には感情の働きも含まれているからだ。さらに、感情はエピソード記憶を強化する働きがあるという。つまり、感情が高揚した状態で経験したエピソード記憶は、内部モデルとしてより強く残るようだ。不適切な判断とは、人の中にすでにある内部モデルの内容が誤った内容であったり、そのときの状況にそぐわない内部モデルを引き出してしまったりすることといえる。これが「思い込み」「決めつけ」の正体だ。

 ここで教育に立ち戻ってみよう。「必要な行動と分かっているのに実行しない」という心の問題による不適切な判断は、誤った内部モデルの存在が原因である。したがって、その解決策としての教育とは、内部モデルを修正することだ。しかし、すでに存在する内部モデルを消すことは本人しかできない。

 そこで、教育の役割は、適切なエピソード記憶を新しく持たせることにあるといえよう。言って聞かせる指導や、講義は意味記憶の更新であり、これで心の問題は解決できない。その解決するための教育には、経験・体験によって、自ら感じ、考えることを通じて、適切で新しいエピソード記憶を持たせることが必要だ。

 筆者がこれまでに受講した研修の中で、もっとも忘れられないものは、講師から1時間にわたって衆目の中でつるし上げられた研修である。そのときは講師にかなり反発したが、自分の頭も相当に働いていたのだろう。反面教師的な面も含めて、その研修は自分を変えるきっかけになったと思っている。反発が脳をより働かせ、結果として自分にとって良い経験を得ることになったといえそうだ。研修結果を評価する方法が、単にそのときの表面的な満足度になってはいけないと思う次第である。

 結論として「君はなぜ、やらないのか?」のような心の問題の解決は、適切な新しい経験を増やすことで可能となる。そのときの教育は、適切な内部モデルを持たせるための経験の場を与え、思考をサポートするものでなければならない。

【吉田】
2012.01.10

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