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君はなぜ、やらないのか(2)「感情がブレーキをかける」
 実行すべきであることを頭で分かっていても、人の心が実行を思い留まらせることがある。部下がそのような態度を見せたとき、あなたが上司であれば「君はなぜ、やらないのか?」と思うだろう。これを性格や性根といった生まれつきの問題だとすると、脅しや恐怖を与えることしか解決の道が無くなる。これは、生まれたあとに形成される「心」の問題と考えなければならない。

 人の行動判断は、脳の処理といわれる。脳はアミノ酸などからできている“物質”であり、その作用はニューロンなどの器官で行われる電気的作用なのだが、心の働きというのもそういった物質作用の一つなのだろうか。それを考えるヒントとして、脳がどのようにできたかを整理してみよう。生物といっても、脳を持つものと持たないものがあるのだ。
 
 宇宙の始まりは単純な物質のみの世界だった。その中で単純なアミノ酸が生まれ、それらがさまざまに結びついて高分子化合物となり、それが自己複製という作用を持つまでになる。これが生命・生物の誕生だ。さらに、始めは単細胞であった生物が、多細胞に進化し、細胞間の情報伝達をつかさどる神経が生まれる。そして、神経は複雑に進化し、脊椎動物ではこれらのコントロールセンターとしての脳が生まれるにいたる。
 
 細胞には本能という、もともと生得的に備わった自己保存行動の判断パターンがあるが、脳は、さまざまな情報を処理することによって、自己保存を超えて集団保存を図るなど本能に従わない行動を選択することができる。それが“種”の保存確率を飛躍的に高めた。こういった脳の情報処理の働きを、理性(論理的判断)とよぶ。
 
 ところが脳はときに、集団保存のために自己の死を選ぶなど、本能を無視した暴走をすることがある。そこでこれにブレーキをかけ、自己保存という本能を呼び戻す機能が必要になる。これが感情(本能的判断)だ。心といわれるものはこれかもしれない。もちろん感情には「やりたくない」だけではなく、「がんばろう」もある。いずれも、理性の判断にブレーキをかけているものと理解できる。心の問題とは、このブレーキが不適切に働いてしまう現象だ。しかし適切に機能すれば、理性と感情との調整によって、個体と集団の双方にとっての最適な行動選択が可能となる。これが、個体の生死や種の存続・淘汰を含む個体の生命活動を推し進めていく。

 適切な判断には、理性と感情を適切にコントロールすることが必要だ。感情のコントロールは、いま自分がどのような感情を持っているかを冷静に客観視することで可能になる。他方の理性は、脳の情報処理システムだ。脳は、体中の器官を通じて集めた情報を、どのように処理して判断の形成につなげているのだろうか。また、心が脳の中の機能の一つだとすれば、どのように脳の中の情報に関わっていくのだろうか。次回は、この点を明らかにしながら、効果的な教育のあり方を考えてみたい。

【吉田】
2011.12.05

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